一括下請負の禁止について
一括下請負は、発注者が建設工事の請負契約を締結するに際して建設業者に寄せた信頼を裏切ることになること等から、建設業法22条で禁止されています。
建設業法22条を見てみましょう。
(一括下請負の禁止)
第22条 建設業者は、その請け負つた建設工事を、いかなる方法をもつてするかを問わず、一括して他人に請け負わせてはならない。
2 建設業を営む者は、建設業者から当該建設業者の請け負つた建設工事を一括して請け負つてはならない。
3 前2項の建設工事が多数の者が利用する施設又は工作物に関する重要な建設工事で政令で定めるもの以外の建設工事である場合において、当該建設工事の元請負人があらかじめ発注者の書面による承諾を得たときは、これらの規定は、適用しない。
4 発注者は、前項の規定による書面による承諾に代えて、政令で定めるところにより、同項の元請負人の承諾を得て、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて国土交通省令で定めるものにより、同項の承諾をする旨の通知をすることができる。この場合において、当該発注者は、当該書面による承諾をしたものとみなす。(引用元)建設業法
まず、1項では、元請業者に対して一括で下請けに出してはいけない事を明記し、2項では、下請業者に対して一括下請負をしてはいけない事が明記されています。
次に、3項では、発注者からの書面による承諾による一括下請負禁止の例外が明記されており、4項では、3項の書類を電子情報で行う事を認める旨が記載されています。
建設業法22条のまとめ
- 元請業者に対しての一括下請負禁止
- 下請業者に対しての一括下請負禁止
- 公共的な施設以外であり、発注者の書面または電子書面があれば一括下請負可能
一括下請負禁止に関するガイドライン
一括下請負の禁止について(H28.10.14通知)国土交通省近畿地方整備局の資料
国土交通省の土地・建設産業局長から建設業者団体の長あてに通達が発出されています。
一括下請負は、発注者が建設工事の請負契約を締結するに際して建設企業に寄せた信頼を裏切ることとなること等から、建設業法第22条において禁止されているところ、依然として不適切な事例が見られることから、一括下請負の排除の徹底と適正な施工の確保が求められている。
「建設業法22条の一括下請負禁止を守らない業者がいるので守るようにしてください。」という意味ですね。
(……)実質的に施工に携わらない企業を施工体制から排除し、不要な重層化を回避するため、一括下請負の禁止に係る判断基準の明確化を図る必要がある旨が提言された。
これを受け、下記のとおり「一括下請負の禁止について」を定めたので送付する。
ついては、貴団体におかれては、その趣旨及び内容を了知の上、貴団体傘下の建設企業に対しこの旨の周知徹底が図られるよう指導方お願いする。
「「一括下請負の禁止について」新しくまとめたので、配下の建設業者に対して周知徹底してください。」と言っています。
それでは、通達に書かれている「一括下請負の禁止」の内容を見ていきましょう。
一括下請負の禁止(通達)
一括下請負の禁止について、なぜ禁止されているかという点をよく理解しておくことが大切です。
そのため、ここからは、実際の通達の内容を引用しながらひとつずつ見ていきます。
建設工事の発注者が受注者となる建設業者を選定するに当たっては、過去の施工実績、施工能力、経営管理能力、資力、社会的信用等様々な角度から当該建設業者の評価をするものであり、受注した建設工事を一括して他人に請け負わせることは、発注者が建設工事の請負契約を締結するに際して当該建設業者に寄せた信頼を裏切ることになります。
発注者は建設工事を発注する際に、元請業者の実績や規模、技術力など様々な点を考慮して、業者を選定しています。それにもかかわらず、一括して他の業者に請負わすという事は、発注者の元請業者に寄せた信頼を裏切ることになるので、一括下請負は禁止しています。
発注者の信頼を裏切ってはいけないといっています。
また、一括下請負を容認すると、中間搾取、工事の質の低下、労働条件の悪化、実際の工事施工の責任の不明確化等が発生するとともに、施工能力のない商業ブローカー的不良建設業者の輩出を招くことにもなりかねず、建設業の健全な発達を阻害するおそれがあります。
一括下請を容認すると、いわゆる丸投げ状態でお金だけ詐取する業者が出てきます。その結果、工事の品質が悪くなり、しいては、建設業の健全な発達を阻害することになるので、一括下請けは禁止しています。
丸投げ、中間詐取の防止ですね。
このため、建設業法第22条は、いかなる方法をもってするかを問わず、建設業者が受注した建設工事を一括して他人に請け負わせること(同条第1項)、及び建設業を営む者が他の建設業者が請け負った建設工事を一括して請け負うこと(同条第2項)を禁止しています。
建設業法22条を守ってください。
また、民間工事については、建設業法施行令第6条の3に規定する共同住宅を新築する建設工事を除き、事前に発注者の書面による承諾を得た場合は適用除外となりますが(同条第3項)、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律(平成12年法律第127号)の適用対象となる公共工事(以下単に「公共工事」という。)については建設業法第22条第3項は適用されず、全面的に禁止されています。
共同住宅を新築する建設工事を除いて、民間工事であれば、発注者の書面による承諾があれば一括下請負の禁止は適用されません。
ただし、公共工事に関しては一括下請負の禁止の適用除外要件はなく、全面的に禁止されます。
民間工事→発注者の書面による承諾
公共工事→全面禁止
同条第1項の「いかなる方法をもつてするかを問わず」とは、契約を分割し、あるいは他人の名義を用いるなどのことが行われていても、その実態が一括下請負に該当するものは一切禁止するということです。
よっぽど抜け穴を見つける人が多いのか、当たり前のことが書かれています。
形式上だけ契約を分割して一括下請していないように見せかけることや、他人の名義を使って一括下請していないように見せかけることは禁止です。
工事の実態が一括下請負に該当すれば禁止です。
見せかけの言い訳は通りません。
また、一括下請負により仮に発注者が期待したものと同程度又はそれ以上の良質な建設生産物ができたとしても、発注者の信頼を裏切ることに変わりはないため、建設業法第22条違反となります。なお、同条第2項の禁止の対象となるのは、「建設業を営む者」であり、建設業の許可を受けていない者も対象となります。
最終的に想定以上の品質の物ができたとしても、結果論であり、一括下請負により、発注者の信頼を裏切ったことに変わりがない。また、一括下請負禁止は建設業許可の有無にかかわらず、許可を受けていない業者も対象です。
結果論でなく一括下請にだせば発注者の期待以上のものを作れる保証があってもダメなの?
公共工事は論外ですが、
民間工事であれば事前に発注者の書面による承諾を取ればよいのです。
そりゃそうだ。
元請・下請の役割
建設業者は、その請け負った建設工事の完成について誠実に履行することが必要です。したがって、元請負人がその下請工事の施工に実質的に関与することがないときは、一括下請負に該当します。
「実質的に関与」の具体的な内容
元請が果たす役割
- 施工計画の作成
- 建設工事全体の施工計画書等の作成
- 下請負人の作成した施工要領書等の確認
- 設計変更等に応じた施工計画書等の修正
- 工程管理
- 建設工事全体の進捗確認
- 下請負人間の工程調整
- 品質管理
- 建設工事全体に関する下請負人からの施工報告の確認
- 安全管理
- 安全確保のための協議組織の設置及び運営、建設工事全体の労働安全衛生法に基づく措置
- 技術的指導
- 建設工事全体における主任技術者の配置等法令遵守や職務遂行の確認
- 現場作業に係る実地の総括的技術指導
- その他
- 発注者等との協議・調整
- 下請負人からの協議事項への判断・対応
- 請け負った建設工事全体のコスト管理
- 近隣住民への説明
下請が果たす役割
- 施工計画の作成
- 請け負った範囲の建設工事に関する施工要領書等の作成
- 下請負人が作成した施工要領書等の確認
- 元請負人等からの指示に応じた施工要領書等の修正
- 工程管理
- 請け負った範囲の建設工事に関する進捗確認
- 品質管理
- 請け負った範囲の建設工事に関する立会確認(原則)
- 元請負人への施工報告
- 安全管理
- 協議組織への参加、請け負った範囲の建設工事に関する労働安全衛生法に基づく措置
- 技術的指導
- 請け負った範囲の建設工事に関する作業員の配置等法令遵守
- 現場作業に係る実地の技術指導
- その他
- 元請負人との協議
- 下請負人からの協議事項への判断・対応
- 元請負人等の判断を踏まえた現場調整
- 請け負った範囲の建設工事に関するコスト管理
- 施工確保のための下請負人調整
細かい要件は下記を確認ください。
一括下請負に該当するかどうかの判断
一括下請負に該当する条件
- 請け負った建設工事の全部又はその主たる部分について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
- 請け負った建設工事の一部分であって、他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事について、自らは施工を行わず、一括して他の業者に請け負わせる場合
具体的にはどんなことなの?
事例を紹介していきますね。
その主たる部分を一括して他の業者に請け負わせる場合
事例1
建築物の電気配線の改修工事において、電気工事のすべてを1社に下請負させ、電気配線の改修工事に伴って生じた内装仕上工事のみを元請負人が自ら施工し、又は他の業者に下請負させる場合
解説不要かもしれませんが、一応解説しておきます。
電気配線の改修工事を請負っていながら、メインの電気工事はすべて下請けに丸投げし、自らは電気工事後の内装仕上工事だけ行っています。
内装仕上工事といっても電気工事の影響で内装の修復が必要なレベルのものなので、主たる部分とはいえません。
事例2
戸建住宅の新築工事において、建具工事以外のすべての建設工事を1社に下請負させ、建具工事のみを元請負人が自ら施工し、又は他の業者に下請負させる場合
戸建住宅の新築工事を受注しておきながら、自らは建具工事(サッシの取り付けやカーテンレールの取り付け等)のみを行い、その他は下請に丸投げしたパターンです。
よりによって、新築工事の最終段階の建具工事だけしかしないなんて、当然ながら主たる部分とはいえません。
他の部分から独立してその機能を発揮する工作物の建設工事を一括して他の業者に請け負わせる場合
事例1
戸建住宅10戸の新築工事を請け負い、そのうちの1戸の建設工事を一社に下請負させる場合
解説不要です。
1戸を請負ってその中で一部下請に出すなら程度の問題になりますが、10戸を請負って1戸丸投げは一括下請になります。
事例2
道路改修工事2キロメートルを請け負い、そのうちの500メートル分について施工技術上分割しなければならない特段の理由がないにもかかわらず、その建設工事を1社に下請負させる場合
この場合は無理やりに事例を作ったような感じですが、本当にあったのでしょうか。
全体の一部を不必要に下請けに出すパターンです。
事例が分かると、一括下請のイメージが付きやすいね。
そうですね。
最終的には少しでも一括下請に該当するかもと思った場合は役所の担当者に確認することが大切です。
一括下請負禁止違反の監督処分
受注した建設工事を一括して他人に請け負わせることは、発注者が建設業者に寄せた信頼を裏切る行為であることから、一括下請負の禁止に違反した建設業者に対しては建設業法に基づく監督処分等により、厳正に対処することとしています。
一括下請負の禁止に違反した場合は厳正に対処することとしています。
また、公共工事については、一括下請負と疑うに足りる事実があった場合、発注者は、当該建設工事の受注者である建設業者が建設業許可を受けた国土交通大臣又は都道府県知事及び当該事実に係る営業が行われる区域を管轄する都道府県知事に対し、その事実を通知することとされ、建設業法担当部局と発注者とが連携して厳正に対処することとしています。
公共工事についても同様に、一括下請負の禁止に違反した場合は厳正に対処することとしています。
監督処分については、行為の態様、情状等を勘案し、再発防止を図る観点から原則として営業停止の処分が行われることになります。
監督処分には、原則、「営業停止」処分となります。
結構、重いね。
なお、一括下請負を行った建設業者は、当該工事を実質的に行っていると認められないため、経営事項審査における完成工事高に当該建設工事に係る金額を含むことは認められません。
一括下請負を行った場合は、経営事項審査の完成工事高に当該建設工事の金額を記載できません。
違反した業者にメリットはあたえられません。
ここに書いた内容以外にも細かい要件がありますので、下記の資料は必読です。
一括下請負禁止の明確化について(H28.10.14通知)国土交通省近畿地方整備局の資料
最終的にはご自身で分らない点があれば役所の担当者に必ず確認しておいてください。知らなかったでは通用しない問題です。営業停止処分を貰ってからでは遅いのです。
ガイドラインについてどのような解釈で良いかは
必ず役所の担当者に直接確認してください。